新しい洗剤

section 1

ここ一、二週間でめっきり冷え込んできた。

先日友人に久しぶりに朝練に誘われて、AM5時に目を覚ました。
ベランダに出て、あまりの寒さに驚く。
まだ太陽も姿を見せない薄暗い寒空の下で、つい吐く息の色を確かめようとしてしまった。

とりあえずパンを一枚だけ胃の中に放り込んで、家を出る。
駐輪場では秋の朝の空気に金木犀の匂いが混ざっていた。
自転車に乗って今出川の坂を一気に下っていく。
寒さに震えながら、サドルの上で去年の今頃のことを思い出す。



section 2

最近、昔を思い出すことが多い。

それは、学生生活が後半年もすれば終わることも一役を買っているのかもしれないけれど、
それ以上に、この3年間半、いや、もっと長い時間をかけて「匂い」と結びついてきた記憶の堆積量が多くなってきたからだろう。

「音楽」、「風景」などから昔を思い出すことも多いが、
僕の中で「匂い」というのはその中でも一際大きな力を持っている。


冬の朝の匂いや、夏の雨上がりの道路の匂い。
春の眠ったような空気の匂い、秋の金木犀の匂い。

実家の匂い、自分の部屋の匂い。
昔のシャンプーの匂い、鼻をくすぐる香水の匂い。

洗い立てのシャツの匂い、少し汗のしみ込んだジャージの匂い。
エアーサロンパスの匂い、焼けたタータンの匂い。



全ての匂いが、時に甘く、時に胸をかきむしるほど激しく、
全ての記憶と複雑に絡み合う。
その記憶はとても瑞々しく鮮やかで、一瞬で意識の占有権を奪う。
それゆえに不可避で、その記憶は更新されていく。



section 3

今日はとても天気がよくて、たまっていた洗濯物を一気に処理した。

先日、この数ヶ月使っていた洗剤を切らして、今日新しい洗剤に変えた。
前の洗剤は、なんだかとても懐かしい香りをしていて、
使い始めた日に、「この匂いは」と思ったのを思い出す。



少し名残惜しいけれど。

新しい洗剤も、これはこれで悪くない。

そして、きっとまたいつか、今日のこの日を、懐かしく思い出すのだろう。